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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)396号 判決 1960年7月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人白石近章、同篠原三郎の上告理由第一について。

原判決は、所論のように、町村合併促進法二四条が地方公務員法の任用に関する規定の特例であると解したものではなく、右のような規定の置かれた趣旨から見ても、地方公務員法二二条の解釈として、町村合併による新町の発足により従前の旧町村の正式職員であつた者が新らたに新町の職員として任命された場合に、条件付任用に関する同条一項がこれに適用されて条件付採用となり、身分保障を失うに至るというように解すべきではない旨を判決したものであることは、判文上明白であり、右原判示は正当である。それ故所論は採るを得ない。

同第二について。

原判決は、被上告人らが、事務処理能率が幾分低調であり、相当職務に対する積極性が稍不足しており、または上司に対する態度に稍非難すべき点のあつたことが窺えないでもないけれども、原審の確定した事実関係の下においては、右のごとき程度では未だ地方公務員法二八条一項一号、三号に該当する事実ありと判定するに不十分である旨判示しているのであつて、右判断は正当である。それ故所論の違法は認められない。

同第三、第四について。

地方公務員法二八条一項一号、三号に該当するか否かの判断については、任命権者に或る程度の裁量権は認められるけれども、純然たる自由裁量に委された事項ではなく、右法条の趣旨に副う一定の客観的標準に照らして決せらるべきものであり、若し任命権者において、免職事由とせられる事実が右客観的標準に合致するか否かの判断を誤つて免職処分をした場合には、その免職処分は、任命権者に認められる裁量権の行使を誤つた違法のものたるを免れないというべきであつて、右客観的標準に合致するか否かの判断は、地方公務員法八条八項にいう法律問題として裁判所の審判に服すべきものといわなければならない。

原判決は、右と同趣旨に出でたものであり、その確定した事実関係の下においては、本件免職事由とせられる事実は未だ前記一定の客観的標準に合致するものとは認められず、本件免職処分は違法である旨を判示したものであつて、右判示は正当であり、これに関する原審の事実認定は挙示の証拠に照らし是認することができる。所論は原判示に副わない独自の主張を前提として原判決の違法をいい、または原審の裁量に属する証拠の取捨、事実の認定を非難するものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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